「子は宝」ということばがあるように、妊娠し子どもを産み育てることは、日本の未来を左右する重要な過程です。
しかし、妊婦への嫌がらせ行為である「マタニティハラスメント」が存在することも事実です。
他のハラスメントと同じく、ハラスメントをする側は「している」自覚がなくても、受け取る側の妊婦さんがハラスメントと認識したら「マタニティハラスメント」の成立です。
このページでは、マタニティハラスメントに関する制度や事例などを紹介していきます。
なお、私が受けた妊娠体験談を書いている「訪問看護師が妊娠すると働き方はどうなる?」のページもご参照ください。
厚生労働省が定めるマタニティハラスメントには、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2つがあります。
『事業主は、職場でのハラスメントの防止措置を講じなければなりません。』とあります。
つまり、会社でハラスメントを防止する規定を作り、ハラスメントが起きないようにする必要があります。
マタニティハラスメントに関する制度には、「男女雇用機会均等法」と「育児・介護休業法」の2つがあります。
制度等の利用を理由に、解雇や不利益な取り扱いを示唆する言動や、嫌がらせをする言動があったり、
制度等の利用そのものを阻害する言動があることをいいます。
妊娠・出産等を理由に、解雇や不利益な取り扱いを示唆する言動や、嫌がらせをする言動があることをいいます。
状態とは、妊娠や出産したこと、産後休業を取得したこと、つわり等で能率が下がったことなどが挙げられます。
昔から看護師の仕事は、きつい・汚い・危険の「3K」といわれています。
最近では、この3Kに加えて「9K」ということばも出てきています。
9Kとは、「きつい・汚い・危険・休暇が取れない・規則が厳しい・給料が安い・化粧がのらない(できない)・薬が手放せない・婚期が遅い」のことをいいます。
もちろん、看護師が働くすべての職場が9Kということではありませんが、一般企業の職場と比べると、看護師の職場は、妊婦に優しい環境とはいいにくいです。
また、看護師の職場は、シフト制の不規則な生活で夜勤をするところも多く、週2回以上の夜勤で翌週の流産リスクが増えるという研究結果も報告されています。
だからこそ、事業主である病院や施設が職場でのマタニティハラスメントが起こらないように対策を行うことが求められています。
私は以前、地方の救急指定病院(約500床)の病棟に勤務していました。
病棟看護師の7割が20~30代の女性看護師であったので、多くの妊娠中の同僚看護師を目撃してきました。
ほとんどのケースでは、妊婦看護師をサポートしていましたが、一部ではマタニティハラスメントが起こっていました。
病棟は、チームナーシングを導入していたので、チーム内での協力体制が整っていました。
妊婦看護師に直接は言わないですが、数人が集まって陰でコソコソ話している場面はありました。
コソコソ話す人は、子どもを持たない独身スタッフがほとんどでした。
マタニティハラスメントが起こる場所には、職場が多いイメージですが、職場以外でも起こります。
ここでは、私が受けたマタニティハラスメントを紹介します。
私が所属する訪問看護ステーションは、スタッフが10人、利用者さんが100人程の規模、自転車で訪問しています。
私は、非正規雇用(パート)で週4回勤務していました。
ステーションには、既婚者やお子さんのいるスタッフは所属していますが、在籍中に妊娠したスタッフは過去にはおらず、私が第1号となりました。
また、就業規則にも、スタッフが妊娠した場合の対応などの項目はありませんでした。
産婦人科の担当医師からは、自転車は転倒リスクが高くなるので、妊娠6か月目(20週)以降は控えるよう指導を受けていました。
上司と今後の対応について話し合ったとき、以下のマタニティハラスメント発言を受けました。
振り返ってみると、マタハラ発言の嵐です。
上司は私と話し合った後、社長と事務部長とで話し合いを行い、翌日に以下の話をしました。
上司は、自身のマタハラ発言についての謝罪はなく、社長や事務部長の意向に納得していない表情と言動でした。
ステーションでは、自転車で訪問が必須であったので、ステーションでの仕事継続を断念し、同じ系列のデイサービスに異動して産休まで働くことになりました。
デイサービスは、内勤なので天気に左右されることなく、身体がつらいときは適宜休むことができました。
入浴介助やトイレ介助などの負担がかかる動作や腹圧がかかる行為は、免除してくれました。
また、デイサービスには、もともと常勤看護師が在籍していたので、わからない点はその都度確認して仕事をすることができたので、精神的も負担が少なかったです。
デイサービスのスタッフからは、マタニティハラスメントの発言を受けませんでした。
訪問看護とデイサービスでは時給が違い、デイサービスのほうが安いですが、社長の意向で、訪問看護の時給のまま働くことができました。
私は、訪問看護ステーションの上司からはマタニティハラスメントを受けていましたが、デイサービスではマタニティハラスメントはありませんでした。
また、給与も下がることなく働き続けることができました。
デイサービスでの仕事は、身体的にも精神的にも働きやすい環境だったので、異動してよかったなと思っています。
職場以外でもマタニティハラスメントは起こります。
通勤のために、公共交通機関を利用している人も多いと思います。
私は、電車とバスを利用していましたが、電車ホームの待合室でマタニティハラスメントを受けました。
妊娠してからは、通勤中に優先席を使用させてもらいました。
電車ホームの室内待合室の優先席に座っていたとき、70歳代くらいのおばあさんから「若いのにそんなところに座ってないで、どけ!」と大声で怒鳴られました。
私はびっくりして席を立ちましたが、マタニティマークを付けているのを見てなのか、隣の男子高校生が「どうぞ」と譲ってくれました。
妊婦さんによっても妊娠週数によっても、立っていることがしんどい・そこまでしんどくないなど様々です。
通勤バッグは、両手がフリーになるリュックを使用していました。
私は、出勤時も帰宅時も比較的人が少ない車両の端っこに乗って、お腹をガードしていました。
運よく座れるときは、マタニティマークが見えるようにしていました。
優先席に座っていると、「何であなたが座っているの?」という視線が気になることもありました。
座れないときは、座席前のつり革につかまっていました(出入口付近のつり革は、高くなっているので座席前のつり革のほうが楽でした)。
リュックを荷棚に上げるとお腹が突っ張る感じがあり、前側で持つとお腹が圧迫されるので、片側の肩にかけていました。
マタニティハラスメントが起こらないことが一番いいですが、すべての環境で起こらないことは難しいと思います。
マタニティハラスメントを受けないためには、周囲への周知とともに、妊婦さん自身でも制度やサービスを調べて正しい知識を得ることが大切です。
『妊婦さんが利用できる制度やサービスを調べた上で、周囲への理解を得る。』
もちろん、「妊婦様」にならないように周囲への配慮も必要です。
妊婦さんが自身の周りにいない方、高齢の方は、妊婦さんに関する知識が少ない可能性があります。
また、数十年前に出産経験がある方は、自分が出産したときの知識がベースとなり、制度やサービスが変わっていることを知らない可能性があります。
これらのことをしっかり認識して、妊婦さんは制度やサービスを利用しましょう。
いかがでしたか?
知らないうちにマタニティハラスメントを受けていた、していたという場面はなかったでしょうか。
妊婦さんも周囲の人々もマタニティハラスメントに関する正しい知識を持って理解することが大切です。