バイタルサインとは、人間が生きている状態であることを示す生命(Vital)の兆候(Sign)をいい、体温・呼吸・脈拍・血圧・SPO2・意識の測定を行ってアセスメントをします。
状態観察をするツールとして使用されるものが、バイタルサインとフィジカルアセスメントです。
このページでは、体温と呼吸について説明していきます。
なお、他のバイタルサインについては「脈拍と血圧」「SPO2と意識」をご参照ください。
また、フィジカルアセスメントについては「基本的な手技」「視診と触診」「打診と聴診」をご参照ください。
体温は、体の温度のことをいい、人は約37度に維持され、体内で作られる熱エネルギーと周囲の温度によって変化します。
脳の視床下部にある体温調節中枢によって、体温を一定に保っています。
外界の温度が高い場合は、発汗や皮膚の血管拡張、呼吸回数の増加によって放熱します。
外界の温度が低い場合は、皮膚の血管収縮や立毛筋の収縮(鳥肌)によって放熱を防ぎ、骨格筋の収縮(ふるえ)によって熱産生の促し、体温を上げます。
また、衣服を着る・脱ぐことでも体温調節を行います。
体温の測定には、体温計を使用します。
体温を測定する部位は、脇(腋窩温)、口(口腔温)、耳(鼓膜温)、直腸(直腸温)があり、普段測定する部位は主に脇になります。
それぞれの部位によって測定方法や平均体温が違います。
深部温に一番近いものが直腸温(平均37.5度)、次いで口腔温・鼓膜温(37度前半)、腋窩温(平均36.5度)となっています。
直腸温・口腔温・鼓膜温は体腔温、腋窩温は皮膚温です。
これらの部位で体温測定を行い、深部温がどれくらいなのかを推定することができます。
直腸温は、主に新生児期や手術時に測定しますが、不快な感じがあるため普段はあまり使用されません。
腋窩温は、不快な感じがなく、短時間で簡単に測定できるので、多く使用されています。
訪問看護で使用する体温計は、腋窩(脇の下)で測定するデジタル式、ケース付きをおすすめします。
いわゆる「家庭用」で使用されている体温計です。
耳やおでこで測るタイプの体温計は、測定時間は短く簡単に測定することができますが、誤差が大きいので、あまりおすすめできません。
私が所属する訪問看護ステーションでは、この商品を使用しています。
発熱とは、臨床的には37.5度以上を指し、感染症や炎症などにより体温が正常よりも高くなった状態をいいます。
通常は視床下部にある体温調節中枢で体温を一定に設定していますが、感染症や炎症などが原因で、この設定温度が高くなり、発熱が起こります。
熱型とは、発熱の日内変動のパターンによって分類されたものであり、疾患の診断につながることもあります。
熱型の特徴と主な疾患は以下の通りです。
種類 | 特徴 | 疾患 |
---|---|---|
弛張(しちょう)熱 | 1日の体温差(日内差)が1度以上あり、37度以下までは下がらない発熱 | 敗血症、各種感染症、化膿性疾患、悪性腫瘍、膠原病、結核の末期など |
間欠(かんけつ)熱 | 1日の体温差が1度以上あり、37度以下まで下がる発熱 | 弛張熱と同様の疾患、マラリアの発熱期など |
持続(稽留けいりゅう)熱 | 1日の体温差が1度以内で、38度以上が持続する発熱 | 重症肺炎、腸チフスの極期、髄膜炎など |
周期熱 | 熱があるときとないときが、規則的な周期で現れる発熱 | マラリア、関節リウマチ、脾腫など |
ちなみに、38度以上発熱が3週間以上続き、病院での1週間以上の入院精査でも診断がつかないものを不明熱といいます。
発熱が起こると、他のバイタルサインも変動します。
体温が1度上昇すると、脈拍数も約10回/分増えます。
呼吸数が増える(約30回/分以上)と敗血症の可能性があり、血圧が下がると敗血症性ショックの可能性があります。
呼吸とは、外界から体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を体外に排出することをいいます。
呼吸によって、「換気」「ガス交換」「肺の中の血液循環」を行います。
鼻や口から空気を吸い込んで、肺胞まで酸素を送ります(換気)。
酸素を肺内の血液に供給し、体内の不要な二酸化炭素を肺胞内に送ります(ガス交換)。
酸素を取り込んだ血液を心臓にかえします(肺の中の血液循環)。
正常な呼吸回数は、16~20回程度/分です。
呼吸数は、患者が意識せずに自然な呼吸をしている状態で測定します。
呼吸数を測ることを伝えると、意識的に呼吸をしてしまい、正確な呼吸数の測定が難しくなります。
そのため、脈拍を測定するときに呼吸数も続けて測定することが望ましいです。
呼吸を測定するときに必要なものは、「秒針つき時計」です。
腕時計やナース用時計など、いろんな種類があるので、使いやすいものを選択するとよいでしょう。
腕時計は、利用者さんを圧迫したり皮膚を傷つけたりするおそれがあるので、はずしてケアを行います。
ナース用時計は、ポケットに装着することができますが、胸元のポケットに装着すると、前かがみになったときに利用者さんに当たる可能性があります。
そのため、腕時計の場合は脱着しやすいものを選び、ナース用時計は胸元のポケット以外の装着することをおすすめします。
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正常な呼吸パターンには、「腹式呼吸」「胸式呼吸」「胸腹式呼吸」の3つがあります。
腹式呼吸は、横隔膜を使って空気を取り込みます。
腹式呼吸は、副交感神経が優位であり、安静時・リラックス状態にある呼吸で、深く・ゆったりした呼吸です。
胸はあまり大きく膨らまないので、胸(肺)に負担が少ない呼吸法になり、息切れや肺疾患の患者などに有効的とされています。
胸式呼吸は、肋間筋と横隔膜を使って空気を取り込みます。
胸式呼吸は、交感神経が優位であり、活動時・緊張状態にある呼吸で、浅く・速い呼吸です。
お腹はあまり大きく膨らまないので、お腹に負担が少ない呼吸法になり、腹部の手術後の患者などに有効的とされています。
胸腹式呼吸は、胸式呼吸+腹式呼吸です。
ほとんどの人が、状況に応じて胸式呼吸と腹式呼吸を使用しています。
異常な呼吸パターンのには、主に「睡眠時無呼吸症候群 (SAS)」「クスマウル呼吸」「チェーンストークス呼吸」「下顎呼吸 (あえぎ呼吸 )」「起座呼吸」の5つがあります。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:以下SAS)は、夜間の睡眠中に無呼吸と低呼吸(いびき)を繰り返す病気です。
SASは、 無呼吸・低呼吸指数(apnea hypopnea index:以下AHI)が5以上かつ日中の過眠などの症候を伴う症候群になります。
無呼吸とは、10秒以上呼吸が停止している状態のことをいいます。
低呼吸とは、息を吸う深さが浅くなり、10秒以上換気量が50%以上減少する状態が続くことをいいます。
AHIは、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせたものをいいます。
AHIの重症度は、5以上が軽度、15以上が中等度、30以上が重症となっています。
SASの患者は、男性が女性より2~3倍多いとされています。
SASは、夜間に熟睡できないため、日中に眠気が強くなり、集中力が低下します。
また、無呼吸と低呼吸をくり返すことによって低酸素状態が起こり、心臓に負荷をかけ、高血圧・糖尿病・心筋梗塞などの合併症を起こしやすくなります。
クスマウル呼吸は、速く深い規則正しい呼吸をいい、呼吸リズムの乱れや無呼吸はみられません。
深く速い呼吸によって、肺胞換気量を増加させ、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)を低下させて、代謝性アシドーシスを補正しようとする生体反応による代償性の呼吸です。
糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症などの代謝性アシドーシスの患者にみられます。
チェーンストークス呼吸は、呼吸期と無呼吸期が交互に反復する呼吸をいいます。
数秒~数十秒の無呼吸がみられ、浅い呼吸→徐々に深い呼吸となり、その後再び浅い呼吸に戻って呼吸停止となります。
このサイクルを30秒~2分程度で繰り返すことが多いです。
肺水腫や呼吸中枢の障害などで起こります。
中枢神経疾患、アルコール中毒、脳血管障害、呼吸中枢の障害などで起こります。
下顎呼吸は、あえぎ呼吸ともいわれ、呼吸中枢の機能をほぼ失った状態でみられる呼吸をいいます。
頭部を後ろに反らした状態で、口をパクパクさせてあえぐような努力様呼吸となり、長い間呼吸が停止します。
終末期にみられ、死期が近づいているサインのひとつにもなっています。
起座呼吸は、呼吸困難が臥位で増強して、起坐位で軽減することをいいます。
左心不全や気管支喘息・肺炎・気管支炎などでみられますが、原因は以下のような違いがあります。
左心不全(僧帽弁膜症など)の状態で臥位になると、右心系への静脈還流の増加→肺血流量の増加→肺のうっ血→呼吸仕事量の増大→呼吸困難になります。
気管支喘息・肺炎・気管支炎などの状態で臥位になると、気道分泌物の喀出が難しくなり、呼吸困難になります。
今回はバイタルサインの体温と呼吸について紹介しました。
正しい知識を理解して、早い段階で正常・異常のアセスメントができるようにしたいですね。