バイタルサインとは、人間が生きている状態であることを示す生命(Vital)の兆候(Sign)をいい、体温・呼吸・脈拍・血圧・SPO2・意識の測定を行ってアセスメントをします。
状態観察をするツールとして使用されるものが、バイタルサインとフィジカルアセスメントです。
このページでは、脈拍と血圧について説明していきます。
なお、他のバイタルサインについては「体温と呼吸」「SPO2と意識」をご参照ください。
また、フィジカルアセスメントについては「基本的な手技」「視診と触診」「打診と聴診」をご参照ください。
脈拍は、心室の収縮によって押し出された血液の流れによって生じる波動が、全身の動脈に伝わることで触知できるものをいいます。
心拍は、心臓そのものの拍動をいいます。
正常ではれば、脈拍数と心拍数は同じ値になります。
脈拍は、手首の親指側にある橈骨動脈に、人差し指・中指・薬指の3本の指を軽く当てて、秒針付きの時計を使用して1分間測定します。
特に問題がなければ、15 秒間脈拍数を数え、この数を4倍にして1分間の数値とすることもあります。
親指1本での測定は、測定者の脈拍を感じることがあるため行いません。
また、運動や入浴直後ではなく、安静時のリラックスした状態で測定します。
脈拍を測定するときに必要なものは、呼吸を測定するときと同じ「秒針つき時計」です。
腕時計やナース用時計など、いろんな種類があるので、使いやすいものを選択するとよいでしょう。
腕時計は、利用者さんを圧迫したり皮膚を傷つけたりするおそれがあるので、はずしてケアを行います。
ナース用時計は、ポケットに装着することができますが、胸元のポケットに装着すると、前かがみになったときに利用者さんに当たる可能性があります。
そのため、腕時計の場合は脱着しやすいものを選び、ナース用時計は胸元のポケット以外の装着することをおすすめします。
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普段は、心臓から一番遠い場所(末梢)にある橈骨動脈で測定を行います。
橈骨動脈で脈の触れない・弱い場合は、次に遠い場所である上腕動脈の触知を行います。
上腕動脈で脈が触れない場合は、心臓に近い動脈である頸動脈(首)や大腿動脈(足の付け根)などで脈の触知を行います。
触知ができる動脈によって、収縮期血圧の予測ができます。
橈骨動脈が触知可能であれば収縮期血圧は80mmHg以上、大腿動脈が触知可能であれば70mmHg以上、頚動脈が触知可能であれば60mmHg以上の予測になります。
成人の場合、正常な脈拍数は60~100回程度/分です。
年齢が高くなるほど脈拍は遅くなり、高齢者の脈拍は60回/分程度です。
脈拍数の他に、左右差・リズム・大小の確認も行います。
60回/分以下を徐脈、100回/分以上を頻脈といいます。
40回/分以下、120回/分以上となっている・脈の触れが弱い場合は、心臓のポンプ機能を果たしていない・全身への血液供給が不十分になっている可能性があるので、緊急の治療・処置が必要となります。
左右差がある場合は、血行障害があることが考えられます。
左右の血圧を測り、その差が20mmHg以上であれば、血行差があると判断することができます。
異常な脈拍には、さまざま種類がありますが、合わせて不整脈といいます。
不整脈は、主に脈が遅くなる「徐脈性不整脈」、脈が速くなる「頻脈性不整脈」、脈がとぶ「期外収縮」の3種類に分かれます。
不整脈の種類によって、危険な不整脈とそうでない不整脈があります。
徐脈性不整脈は、脈拍が60回以下/分の不整脈をいいます。
徐脈性不整脈には、洞結節の異常である「洞不全症候群」や「完全房室ブロ ック」 があります。
動悸、息切れ、ひどいめまい、急に意識がなくなる (失神)などの症状がある場合は、突然死の可能性があります。
徐脈性不整脈では、ペースメーカーの植え込みなどの治療を行います。
頻脈性不整脈は、脈拍が100回以上/分の不整脈をいいます。
命の危険がある頻脈性不整脈には、「心室細動」、と「心室頻拍」があります。
心室細動は、心室が細かく震えて心臓が機能を失い、突然死の可能性が高い状態をいいます。
心室頻拍は、脈拍が120回以上/分になり、持続すると心室細動に移行して突然死の可能性があります。
頻脈性不整脈では、抗不整脈薬の使用やカテーテルなどの治療など行います。
期外収縮は、脈がとぶ(脱落する)不整脈をいいます。
心臓の拍動が予定より早く打ったために起こり、心室に十分な血液が溜まる前に拍出します(拍出量が少ないまま)。
そのため、拍動が末梢に伝わらずに脈がとんでしまいます。
ほとんどの場合は命の危険はありませんが、連続して発生すると、めまいや血圧低下がみられるため注意が必要です。
血圧は、心臓から送られている血液による血管の圧力の大きさを表します。
血圧=心拍出量(1分間に心臓が拍出する血液量)×末梢の血管抵抗となっています。
最高血圧は収縮期血圧と呼ばれ、心臓が収縮して血液を押し出すときの血圧です。
最低血圧は拡張期血圧と呼ばれ心臓が拡張したときの血圧です。
血圧は、基本的に上腕で測定します。
マンシェットは、上腕(肘から1~2㎝くらい上)に、指1~2本が縦に入るくらいの余裕をもって巻きます。
手を広げて力を抜いて、前腕を心臓の高さに置いてもらいます(仰臥位・座位)。
聴診器をマンシェット下(正中)に当て、人差し指・中指・薬指の3本で橈骨動脈を触診しながら、送気します。
橈骨動脈が触れなくなってから20~30mmHg上げ、ゆっくり減圧します。
最初にコロトコフ音が聴こえた場所が収縮期血圧であり、聴こえなくなった場所が拡張期血圧になります。
血圧を測定するには、血圧計が必要です。
現在主に使用されている血圧計には、「上腕式」と「手首式」「アネロイド式」があります。
水銀血圧計は、大きくて重いので、訪問バッグに入れて持ち運ぶのが大変なので、あまりおすすめしません。
病院やクリニックでは上腕式、デイサービスなどでは手首式が多いと思います。
手首式は、測定時の腕の高さによって値が変動するので、測定機器と心臓を同じ高さにして測定する必要があります。
訪問看護では、コンパクトサイズの上腕式血圧計がおすすめです。
手首式は、よりコンパクトで軽量なので、サイズをや重さを重視するなら、手首式がよいでしょう。
私の所属するステーションでは、アネロイド式血圧計のこの商品を使用しています。
上腕に巻く部分が洗えるので、清潔に保つことができます。
腕と心臓を同じ高さにしないと、正確な血圧測定が難しくなります。
腕が心臓より低いと、下げた分だけ腕の血液の重さが加わるので、血圧は高くなります。
反対に、腕が心臓より高いと、上げた分だけ腕の血液の重さが加わらないので、血圧は低くなります。
血圧は、橈骨動脈を触診しながら測定します(自動血圧計を除く)。
橈骨動脈が触れなくなった値=収縮期血圧の予測値になります。
マンシェットへの送気によって腕を圧迫するので、不快感や痛みをあたえます。
橈骨動脈の触診によって、収縮期血圧をある程度予測することができるので、不必要な送気を避け、不快感や痛みを最小限に抑えることができます。
正常な血圧は、収縮期血圧が140mmHg以下・拡張期血圧が90mmHg以下です。
また、正常な血圧は正常域血圧ともいわれ、以下の3種類に分類されます。
分類 | 収縮期血圧(最高血圧) | 拡張期血圧(最低血圧) | |
---|---|---|---|
至適血圧 | <120 | かつ | <80 |
正常血圧 | 120~129 | かつ・または | 80~84 |
正常高値血圧 | 130~139 | かつ・または | 85~89 |
正常高値血圧は、一般的には治療の必要はないといわれていますが、高血圧になる可能性が高いので、血圧の測定を続け、治療を勧められるケースもあります。
血圧は、環境や状況によって変動します。
血圧を高くするものには、肥満の人、男性、寒い時、食後(1時間程度)、運動後、過度の飲酒、喫煙などがあります。
血圧を低くするものには、仰臥位から座位・座位から立位などの急な体位変換などがあります。
血圧は、毎日ずっと一定に保たれているわけではなく、1日の間で変動します。
血圧の日内変動には、自律神経の働きが関わっています。
日中は身体を活動させる交感神経が優位になるので血圧は高くなり、夜間・睡眠時は身体を休息させる副交感神経が優位になるので血圧は低くなります。
血圧は、上記のような日内変動があるので、朝晩1日2回の血圧測定を行うことが推奨されています。
朝の測定は、起床後1時間以内、排尿後、食事前に行います。
降圧薬を飲んでいる場合は、薬をのむ前に行います。
夜の測定は、入浴前、または就寝前(入浴後1時間はあける)に行います。
今回はバイタルサインの脈拍と血圧について紹介しました。
正しい知識を理解して、早い段階で正常・異常のアセスメントができるようにしたいですね。