時代は手書きからICTへ
以前はどの分野でも手書きが主流でした。
医療業界では、患者一人ひとりの診療記録や看護記録を手書きして、紙カルテで作成・管理するのが一般的でした。
しかし、近年の急速なインターネットの普及によって、社会全体が手書きからICTへ移行しています。
医療業界でICT移行のきっかけになったのが、1999年に厚生労働省が通知した「診療録等の電子媒体による保存について」になります。
この通知によって、紙カルテの電子保存(電子カルテ)やレセプト請求(診療報酬の請求)の電子化が認められるようになり、現在のICTの普及につながっているのです。
小規模の医療機関であるほどICTの普及が遅れている
医療機関のICTの普及率について、厚生労働省の医療施設調査「 電子カルテシステム等の普及状況の推移」の結果をみていきます。
病院(全体) | 400床以上 | 200~399床 | 200床未満 | 診療所 | |
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2008年 | 14.2% (1,092/7,714) | 38.8% (279/720) | 22.7% (313/1,380) | 8.9% (500/5,614) | 14.7% (14,602/99,083) |
2011年 | 21.9% (1,620/7,410) | 57.3% (401/700) | 33.4% (440/1,317) | 14.4% (779/5,393) | 21.2% (20,797/98,004) |
2014年 | 34.2% (2,542/7,426) | 77.5% (550/710) | 50.9% (682/1,340) | 24.4% (1,310/5,376) | 35.0% (35,178/100,461) |
2017年 | 46.7% (3,432/7,353) | 85.4% (603/706) | 64.9% (864/1,332) | 37.0% (1,965/5,315) | 41.6% (42,167/101,471) |
病院・診療所(医療機関)では、年々ICTは普及しています。
2017年のICT普及率で比較してみると、400床以上の大規模の病院では85.4%と高い普及率ですが、200床未満の小規模の病院では24.4%、診療所では35.0%と低い普及率にとどまっています。
訪問看護ステーションのICT普及は急速に増えている
訪問看護ステーション(以下事業所)のICT普及率について、全国訪問看護事業協会の「 訪問看護ステーションにおけるICTの普及状況に関するアンケート調査結果」をみていきます。
この結果は、日々の記録(訪問看護記録書Ⅱ)に焦点を当てたアンケート結果になります。
手書き | ICT | 手書き+ICT | |
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2015年(n=1.345) | 75.4% | 23.0% | 1.6% |
2018年(n=2.111) | 56.9% | 38.6% | 4.5% |
事業所のICT普及率は、38.6%(2018年)と低いです。
しかし、23.0%(2015年)→38.6%(2018年)と普及率の幅は大きいので、今後、急速に普及することが期待されています。
訪問看護ステーションや小規模の医療機関でICTが普及しにくい背景
ICTを導入することによって、さまざまなメリットがありますが、以前として手書きで行っているところもあります。
手書きで行っている背景には、どのような理由があるのでしょうか?
お金がかかる
手書きの場合は、紙代と印刷代のみになるので、低コストですみます。
ICTの場合は、電子カルテのシステム料金として導入金+毎月の使用料金が必要になります。
事業所では、スタッフ人数分のタブレット端末・モバイル端末の利用料金が毎月必要になります。
200床以下の病院や診療所(以下小規模医療機関)では、スタッフ人数分の端末は不要ですが、利用料金は毎月必要です。
各会社によってICTのシステム内容や料金は違いますが、手書きの場合よりコストは高くなります。
スタッフの平均年齢が高い
事業所や小規模医療機関のスタッフのほとんどが、他の医療機関からの転職するケースや休職からの復職するケースになります。
そのため、スタッフの平均年齢が他の医療機関より高いことが多いです。
年齢が高くなればなるほと、手書きの習慣・経験が長く、ICTに触れる機会が少ないので慣れていない傾向があります。
タブレット端末やモバイル端末の使用方法や入力操作を覚えるのに時間がかかったり、操作そのものに時間がかかったりします。
なかには、手書きより時間がかかる・操作が覚えられないからと、ICTの導入そのものを拒否するスタッフもいます。
ICTに詳しいスタッフが少ない・いない
大規模な医療機関では、電子カルテでトラブルが起こった時に対応する専門スタッフが常駐していることが多いので、特別個人がICTに詳しくなくてもすぐに相談できる環境にあります。
それに対し、事業所や小規模の医療機関には、ICTに詳しい専門スタッフの常駐はほとんどありせん。
パソコンに詳しいスタッフが、他の業務と兼任するケースはありますが、パソコンに詳しい=ICTに詳しいわけではないので、負担が大きく解決が難しいこともあります。
そのため、トラブルが起こった場合、「システム会社の担当者に連絡→解決方法を確認→担当者が来るまで待つ・教えてもらいながら自分たちで操作する」ことが必要になります。
訪問看護ステーションでICTを導入するメリット
事業所でICTを導入することによって、さまざまなことができるようになります。
記録時間の短縮化
手書きの場合、利用者宅で記録を行い、同じ内容を事業所でも記録します。
複写になっている記録用紙であれば、1枚を利用者控え、もう1枚をとすることも可能です。
また手書きの場合、スタッフによって字が読みにくい・汚くて読めないことがあるので、読むのに時間がかかったり、正確に読み取れずに間違った情報として認識してしまうリスクもあります。
ICTの場合、利用者宅でタブレット端末やパソコンで入力した内容を、事業所でも確認することができます。
利用者宅で入力途中の内容を、事業所で続きを入力することができます。
入力時に誤字・脱字の可能性はありますが、字が読みにくい・読めないことはなく、読む時間の短縮にもつながります。
レセプト業務の短縮化
手書きのレセプト業務の場合は、1つひとつの記録内容を手入力で確認しながらパソコン入力します。
手入力のため、入力内容の確認が必要ですし、打ち間違いの可能性もあります。
打ち間違いをした場合は、レセプト内容が間違っているので、レセプトを差し戻されたり(返戻)、介護・診療報酬の点数を減点されたり(減額査定)することがあります。
返戻をされた場合には、レセプト内容を修正して、再提出する必要があります。
ICTの場合は、タブレット端末やパソコンで入力した記録内容をそのままレセプト業務に反映されるので、手入力の必要はありません。
そのため、レセプトの返戻や減額査定の可能性も低くなります。
緊急時にすばやく対応
オンコール対応を行っている事業所では、営業時間外や夜間に利用者から電話を受けたり、利用者宅に訪問することがあります。
オンコール対応は交替で担当するので、対応する訪問看護師が、普段からその利用者宅へ頻回に訪問しているとは限らず、利用者の情報があいまいの場合もあります。
利用者の情報があいまいであると、アセスメントもあいまいになるので、適切な対応ができません。
そのため緊急時に対応する場合、普段の状態はどうなのか、どこに住んでいるのかなどの詳しい内容を得る必要があります。
手書きの記録は事業所に保管しているので、利用者の正確な情報を得るためには、利用者宅に訪問する前に事業所に寄って情報を確認することになります。
つまり、電話対応の場合は、適切な対応が難しかったり、緊急時訪問の場合は、利用者宅に到着するまでに時間がかかったりすることが考えられます。
なお、事業所によっては、オンコール対応のために、利用者の個人情報をコピーして各スタッフが自宅に持ち帰るところもあるかもしれませんが、個人情報の漏えいや盗難などのリスクが高くなります。
ICTの場合は、対応する訪問看護師が個々に支給されているタブレット端末やモバイル端末を使用して、その場で情報を確認することができます。
そのため、電話対応でも緊急時訪問でも、すばやく対応することができます。
事業所内や多職種と同時に情報共有できる
手書きの記録の場合は、記録はその場でしか確認できません。
事業所内で情報共有する場合は、担当看護師が事業所に戻ってから、多職種と情報共有する場合は、電話やFAXを利用してそれぞれ個別に対応することになります。
ICTの場合は、タブレット端末やモバイル端末で入力した情報は、瞬時にサーバー内に保管されます。
情報を入力したタイミングで、ステーション内や多職種と情報共有することができるので、スピーディーな対応ができます。
また、写真の共有もできるので、一目で状態がわかります。
スピーディーな対応は、利用者の安心にもつながります。
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